フラメンコの曲種はいろいろあるよということなのですが、今日はタラント(Taranto)について書いてみようと思います(力つきない限り…)
管理人も好きな曲の1つです。
アンダルシア州とレバンテ地方のこと
アンダルシア
アンダルシア州(アンダルシアしゅう、Andalucía)は、スペインを構成する自治州のひとつである。
ウィキペディア
フラメンコ関係者であればご存知の「アンダルシア」というのは、スペインを構成する17の自治州のうちの1つで、スペイン南部に位置する8つの県で成り立ってます。
アンダルシア州の位置や、アンダルシア州を構成する8つの県はこちらのウィキペディアの「アンダルシア州」のページに詳しいです。
アンダルシア州を構成する8つの県は次のとおりで、フラメンコのパロ(ヌメロ・ナンバー)でよく耳にすると思います。例えば、「ファンダンゴ・デ・ウエルバ(ウエルバ地方のファンダンゴ)」「タンギージョ・デ・カディス(カディスのタンギージョ)」「セビジャーナス」「タンゴ・デ・グラナダ(グラナダ地方のタンゴ)」「タンゴ・デ・マラガ(マラガのタンゴ)」など。
レトラ(歌詞)としても、例えば「Viva! Sevilla!(セビージャ万歳!)」とか、「Cuando salgo de Cádiz,me llevo sal(カディスを去るときは、その塩を持って帰るんだ」とか、地域の名前が出てきます。
- ウエルバ(Huelva)
- カディス(Cádiz)
- セビージャ(Sevilla)
- マラガ(Málaga)
- コルドバ (Córdoba)
- グラナダ(Granada)
- ハエン(Jaén)
- アルメリア(Almería)
レバンテ地方
そして、「レバンテ地方」というのは、これまたフラメンコでよく耳にする場所ですが、イベリア半島の東岸地域(スペインの地中海岸)を指す名称です。
アンダルシア州だと、東海岸はアルメリアがある場所になります。
タラントのこと
というわけで、地理的なお名前を頭に入れつつだとイメージが湧くのですが、タラントは、東アンダルシアで生まれた、鉱山労働者の曲です。
東アンダルシアの「グラナダ」や「アルメリア」にかけては山岳地帯が連なり、そこで働く鉱山労働者から始まった曲と言われています。鉱山労働者はその後、アンダルシア州の「ハエン」や、ムルシア州の「カルタヘナ」に移動したとも言われています。
タラントが「カンテ・レバンテ」(レバンテ地方の曲)の1つとなっているのは、上記のような鉱山労働者の方たちの移動に伴って歌ができてきた背景があります。
タラントのレトラの中でも「カルタヘナ」とか「アルメリア」などの地域の名前が出てきます。
タラントの構成
タラントの構成の解説は、池川先生のYoutubeに詳しいです!
私がタラントを踊る場合の構成はだいたいこんなカンジです!
1 | Salida(サリーダ) | 出だしのこと。Salirの名詞。 |
2 | 1 Letra(プリメラレトラ) | 1つめの歌振り(歌に合わせた振付のこと) |
3 | Falseta(ファルセータ) | ギターがメインとなる部分。歌はない。 |
4 | Escobilla(エスコビージャ) | サパテアード(足のステップ)がメインとなる部分 |
5 | 2 Letra(セグンダレトラ) | 2つめの歌振り |
6 | Tango(タンゴ) | タンゴ。タンゴも2つの歌振りを入れる場合や、間にファルセータやエスコビージャを入れることもある。 |
去り歌(salidaとも言う) | 全てが終わり、自分の元居た椅子に戻るか、舞台からはける。 |
歌振りのコンテスタシオン
タラントの特徴の1つですが、歌振り(レトラ)の部分は、contestación(コンテスタシオン)といって、レトラに対して、踊り手が対応する(contestar 対応する)という掛け合いでできていることが挙げられます。
もしかしたら、ここが踊り手とすると、タラントの苦手な部分かもしれません!
私の憧れ・尊敬するお師匠のさおり先生の動画がYoutubeにありましたので、こちらを引用してみます!
それにしても本当に素敵…
2″12から1歌が始まります。
まずカンテさんが「tu camina」と歌うと
2″24から、お師匠が1つめのコンテスタシオンを入れています。
2″36から、カンテさんがまたレトラを歌います。「dime que llevas…camina」
3″03から、お師匠が2つめのコンテスタシオンを入れています。
3″16から、カンテさんがまたレトラを歌います「llevo al probe…」
3″45から、お師匠さんの3つめのコンテスタシオンです。
こんな感じで、1つめのレトラに、歌→コンテスタシオン①→歌→コンテスタシオン②→歌→コンテスタシオン③みたいに、3つ、コンテスタシオンが入ることが多いと思います。
コンテスタシオン①は、踊り手さんによってはない場合もたびたび見ます。
そして、このコンテスタシオンの前の歌の長さやレトラが、歌い手さんによって違うことがほとんど。
もしかしたら同じ尺の方もいるかもしれませんが、ライブの際に「何コンパス」と数えたことは一度もないです。
ってか、数えてたりすると、歌に合わせてコンテスタシオンを入れる(contestarする=対応する)ことができなくなっちゃうからです。
歌い手さんとギターさんをよく聴いて、ここっていう場所に、コンテスタシオンを入れていきます。
タブラオでライブをするときは合わせが1回あるかないかがほとんどなので、新人公演や発表会でタラントとなれば何回も合わせたり、歌の尺を同じにしてもらうのだと思いますが、通常のライブのタラントだと、その時々によって長さが異なる感じになると思います。
リハーサルのときに「この長さで」とお願いしていたとしても、本番は違っちゃうこともよくあるので、踊り手がよく歌とギターを聞いて合わせる必要があります。
エスコビージャの伝統的な音
もう1つタラントの特徴とすると、エスコビージャに伝統的なタラントの音が入ることがけっこうあります。
先ほどのお師匠さんの動画だと、8″26から、ギターのエミリオ先生が、その例の伝統的なタラントのファルセータを弾いていらっしゃいますね!
もうお一方、私もクルシージョでお世話になったことのある萩原淳子先生ですが、先日の”CONCURSOS CANTE DE LAS MINAS 2024″で、外国の方で初めて優勝されました!
そのカンテデラスミナスが、セミファイナルもファイナルも全てYoutubeにアップされているのですが、萩原先生のタラントでも、伝統的な音が弾かれています。動画だと、1:25:00のあたりです。
タンゴ・デ・グラナダ
そしてレトラの後のタンゴ部分ですが、タンゴ・デ・グラナダが歌われます。
先ほどのお師匠さんの動画では10″32あたりから、リブレの形でタンゴが始まります。
哀愁漂うグラナダのタンゴがくると、タラントだなってカンジがします。個人的に踊っていても、タンゴデグラナダで気持ちがけっこう締まるような印象を持ちます。
タラントのレトラ(歌詞)
私の知っているレトラを1つご紹介します。
このレトラは、上記のさおりお師匠先生の踊りでも1歌として、カンテさんが歌っていらっしゃいます。
鉱山労働者の悲哀を歌ったヌメロであることがわかります。
Tu camina dime que llevas tu en el caro que tan despacio el camina llevo al probe de mi hermano que un barreno en la mina ay, le ha cortado las dos manos | あなたのそぞろ歩き そんなにゆっくりと歩いて 何をその荷車に積んでいるのだろうか これは削岩機で、両手を切ってしまった 可哀想な鉱夫、私の兄 |
私がよくレトラ(歌詞)を参照するサイト ” De Palo en Palo ”にも、上記のタラントの歌詞が載っています。
02. SONIDOS NEGROS (Taranto) というところです。
タラント振付中~
というわけで長々書きましたが、タラントはこういう背景の曲だ~とわかったうえで踊るのとそうでないのとではやっぱり違うかなと思いまして。
こういう情景とか、そのころの労働者のこととか、アンダルシアやレバンテの山脈・港町の情景とか、そんなことを思いながら振り付けを考える?踊ってみたりするワケです…一応…
11月9日の池川先生のライブではタラントを踊らせていただきます!
すでにご予約いただいているみなさま、ありがとうございますm(__)m
観覧の際は、私の踊りはともかく、素晴らしいギターと素晴らしいカンテさん、
そして、踊りでいえば、上記の「あ、これってコンテスタシオンかな?」とか、「あ、これが例のやつか」とか少し頭の片隅に入れながら観ていただけると、お勉強になると思います。
チケットは池川先生のこちらのページから電子チケット購入ができます!